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うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

『髑髏皇帝』ー宿命に翻弄された北条時行、足利直冬、楠木正行を描くホラー小説

南北朝時代を舞台にしたホラー小説『髑髏皇帝』(田中文雄著、講談社)が電子化されていたのでキンドルで購入し、先ほど読了。最初はふつうの時代小説、歴史小説風じゃったが、途中から一転して怨霊どもが跋扈する展開に。なんかもう勢いで読了してしまったよ。髑髏だけにw

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髑髏皇帝

魑魅魍魎がまだ跳梁跋扈していた南北朝時代天皇親政を目論む後醍醐帝の側近には、密教僧文観が寄り添っていた。実力をつけ台頭する武士の声に励まされた足利尊氏は、新田義貞楠木正成らとの戦に身を投じる。天皇を父とも思慕する尊氏ではあるが、天皇密教の秘儀を通した怨霊との交わりにおぼれていく…。 モダン・ホラーの第一人者が描く、異色の歴史伝奇ホラー小説。

足利尊氏に対抗するため、密教の秘儀を通じて怨霊と手を組む帝王後醍醐。天孫降臨、万世一系、為政者として国家安寧のために祈りを捧げる天皇にとって、怨霊と手を結ぶなんぞは王者としては禁じ手。『髑髏皇帝』は、こうした由々しき事態に、本来は南北敵味方であるはずの足利直冬北条時行楠木正行の3人が協力しあって、怨霊どもと対峙する摩訶不思議な小説で、主役はこの3人の若武者じゃ。

この小説については、もう感想とか読後感とかそういうのはめんどうくさい。南北朝クラスタならば、しのごの言わずにともかく読んでみるべし、という感じじゃ。足利尊氏、直義、大塔宮、楠木正成新田義貞勾当内侍北畠顕家高師直赤橋守時など、主要キャストも登場するから、それなりに楽しめることはまちがいない。

とくに、わしのように北条時行から『髑髏皇帝』にたどりくような読者にはおすすめじゃ。鎌倉幕府滅亡、諏訪での生活、中先代の乱南朝への帰参と、苛烈な人生を生きたにもかかわらず、北条時行南北朝を題材にした小説でも、史実を淡々と無味乾燥に描くものがほとんどで、その心情なり葛藤なりを描くものはほとんどないからな。にもかかわらず本作では諏訪の姫君との恋バナもあるんじゃよ。中先代の乱で時行が諏訪頼重らとともに鎌倉に攻め込み、故地を奪還した場面はぐっときたぞ。

北条時行だけでなく、足利直冬楠木正行も宿命に翻弄されて生きた若武者じゃが、この小説では3人がいい感じで交わっている。思うに3人とも、本音の部分では「宿命とかなんとか親父たちが勝手につくったもんで、俺たちには関係ないんじゃね?」といった部分がどこかにあったんじゃないか、などと思ったりも。死後3人が「俺たち、親とかの都合で、なんか損な人生だったよな」とあの世で語り合っているような、そんな気がした。ホラー小説じゃから、こういう読み方は間違いなんかもしれんがのう。

ネタバレは申し訳ないのでこのへんでおしまい。