北条高時.com

うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

あやうし足利家~大河ドラマ「太平記」第5回の感想など

謀反を企てた日野俊基との関りを疑われ、足利高氏が逮捕された! 足利と北条が合戦か! 鎌倉に緊張感が走る…… あやうし足利家!! この放送回は、高氏のパパ・貞氏がメインで、ほぼフィクションとはいえ、じつに見ごたえがあったぞ。

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貞氏、執権に高氏助命を直訴 

貞氏は連署金沢貞顕の屋敷を訪れ、幕府への取りなしを頼む。このドラマでは上杉清子とずっと一緒にいる貞氏じゃが、もともと貞氏の正室は貞顕の妹だから、当然じゃろう。

じゃが、児玉清さん演じる貞顕は、人はよいけれど、てんで頼りにならない。高氏逮捕は長崎円喜・高資父子の独断ですすめられており、自分では手が出せないと逃げるのじゃ。 となると、貞氏が頼るべき存在は……そう、執権・北条高時しかおらんわな。

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「めずらしいのう、足利殿。つつがのうお過ごしか? そこは田楽を好むでなし。犬合わせを観に来るでなし。とんと顔をみる折がない。そちは家で何をしておる。何が楽しみでいきておるのじゃ?」
「まず幕府の繁栄をわが喜びとし、ひたすらそのために相勤めております」
「あっ、そう。立派な心掛けよのう。父、貞時もそのようなことを申して話しておった。執権たるもの天下の安泰、万民の幸せをわが喜びとしなければならぬ。そのためには何事も公平でなくてはならぬ。公平が肝要ぞ、と」
「その公平を欠く政事がこの鎌倉にまかり通っております。ご存じでありましょうか」
「ご子息・高氏殿のことよのう。そのことなら長崎円喜に任せてある。円喜に問うがよかろう」
「おそれながら、御父上から公平なる政事をお嗣ぎあそばされた執権の君に、お力を賜りとう存じます」
「……」

「そちは何が楽しみで生きているのじゃ」…この問いかけはなかなかに深い! 「お家の安泰のため真面目に生きるのもよいが、もっと楽しいことをせよ」という高時の無言のメッセージなんじゃが、ぼくねんじんの貞氏には、それは伝わらないじゃろうな。

ちなみに、この大河ドラマで、高時は「公平」という言葉をよく使う。これが父・貞時や円喜から刷り込まれた政治信条なんじゃ。

めんどうくさいことが大の苦手で、すぐにつむりが痛くなってしまうが、高時は公平を何より好み、不正が大嫌いな執権なんじゃよ。

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苦悩する貞氏、わかってない高氏

高時との対面の帰りに貞氏は円喜父子と出くわす。じゃが、円喜に小馬鹿にされた貞氏は黙して語らず、そそくさと屋敷へ戻る。屋敷に戻った貞氏は清子に、このときの忸怩たる思いを語る。

「(円喜に)手を付いて慈悲を請えば、少しは道が開けたかもしれん。それができなかった。20年やってきたことができなかった。愚かじゃのう。一生手をついて慈悲を請うて、それで安穏に暮らせるのなら……なぜ手をつかぬ」

これが「足利プライド」か? まあ、執権はともかく、長崎は単なる得宗の家宰、虎の威を借りるキツネにしかみえぬじゃろう。貞氏の気持ちはわからんでもない。

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貞氏は貞顕の手引きで高氏と面会する。

「むざむざ罠にはまり、高氏は無念にございます」

貞氏に愚痴る高氏。こらこら、「罠」っていうけど、どう考えても今回の一件は高氏の身から出た錆じゃろう。謀反人・日野俊基と密会し、しかも六波羅の追手が迫る俊基を白昼堂々助け出せば嫌疑がかかるのは当然ではないか?

さらに高氏は、今回の一件は高氏のみ、足利家のみの試練ではなく、北条の肝が試される試練じゃと悪口をはく。

「鎌倉がいかほどのものか見届けとうございます。合点のゆかぬ時は、この牢を蹴破ってでも出でて、鎌倉と一戦交える覚悟」
「そのほうを、いかなる事があろうとも見殺しにはせん」

やるのか? 足利は滅びるぞ。貞氏はさっきまで、手をついてお慈悲を請うべきじゃったと後悔しておったではないか。貞氏、それでは円喜の思うつぼ。ここは思案のしどころじゃよ。

高氏 危機一髪、審問に佐々木道誉が登場

かくして高氏への審問が始まる。長崎高資の居丈高な尋問に対し、高氏は弁明に努めるが、日野俊基と会っていたことはすっとぼけて認めない。 そこで登場したのが佐々木道誉。青ざめる高氏。道誉は、高時の命で京都の様子を探るため、不穏分子に接近しついたと言う。そして、日野とともに若武者が道誉の屋敷に逃げ込んできたこと証言する。 f:id:takatoki_hojo:20200505163413j:image

「その武士の名は?」
足利高氏!」
「その足利高氏とは、そこに控えし足利よの?」

してやったりと、満足げな高資。高氏は万事休す? ところが!

「いや、ここに控えしお方は足利殿に非ず!」
「なんと!?」

こら道誉、お前はいったい何を考えておるのじゃ。ここで高氏に恩を売ってどうしようというのじゃ。これには円喜と高資は大慌て。

「よ、よく見られよ、これが足利高氏ぞ」
「さては、さては、あの足利高氏は偽物であったか。佐々木判官、面目次第もござらん」

この展開に審問は中断され、引きあげるていく道誉を円喜が呼び止める。

「判官殿、ずいぶん話が違いますな。貴殿は、われらと同心と思うていたが」
「円喜殿、勘違いをなされては困る。わしは執権殿の命により審問に出ただけでござる。わしに指図できるのは執権どののみぞ」

と扇子を円喜の胸にピタッと打ち当てる。これ、同じように円喜が貞氏にやっておったが、人を小馬鹿にするときの流行りなのか? 

いすれにせよ、これぞ近江源氏の矜持。しかも道誉はわしの相伴衆でマブダチじゃから、怖いものはない。円喜に対しても強気に出られるのはそういうわけじゃよ。

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かくして道誉は高氏に恩を売った。石橋山で頼朝公を救った梶原景時の心境か? このバサラ者、やはり食えぬ男じゃ。

「鎌倉は腐り果てている」…赤橋守時が登場

そして高氏のところへ、赤橋守時が訪ねてくる。足利殿が何を考え、何を行おうとしたかを聞きたいという。

「東国で生まれ育った武士が、わずか数日都をみただけで、東国に弓を引くことはある。それほど都はなにもかもいきいきして、何かが変わろうとしている。鎌倉は腐り果てている。その中で生きている足利も腐っている。日野俊基殿が謀反を企てていたかは存じませぬが、それがしには見事な御方に思えました。あと1年、あと数か月早うに日野殿に会うていたら、この足利高氏、鎌倉に矢を射たかもしれませぬ」
「それがしも北条でなくば、やはりそう申すであろう。鎌倉は腐り果てている。幕府は長崎だけではない。気短かになられぬよう」

赤橋の言葉に高氏は驚く。そして守時もまた高氏にほれこんでしまう。このとき守時は高氏を救い、妹の登子を嫁にすることで、鎌倉の建て直しを決心したのじゃ。

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安藤氏の乱がおこる

その頃、鎌倉に陸奥の安藤季長が反乱を起こし、幕府軍が苦戦しているとの報せが届く。そして、新田義貞と安東季長の身内・安東十郎という者が、足利貞氏を訪ねてくる。

安東十郎は、貞氏に奥州に呼応しての決起を促す。幕府軍は非力であり、奥州の不満分子も合流を約束しているという。十郎は、長崎円喜の今回の高氏拘束をなじり、いま、足利が立てば天下は動くと、貞氏を説きまくる。同行したショーケンが演じる新田義貞は無言だ。 

「此は新田殿の謀事よのう?」
「新田は足利殿と違い、無位無官の貧乏御家人。力もなければ思うところもございません」

貞氏の心は動いたのか? ここで足利が立つといえば新田も立つのか? そうなるとたしかに、鎌倉にとってはめんどうなことではあるが……

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ちなみに、ここで登場した安藤氏とは「蝦夷管領」と呼ばれる北条の家臣。安藤氏の内紛は蝦夷蜂起とからんで鎌倉を大いに悩ませた。「安藤氏の乱」については鎌倉幕府滅亡のきっかけになった事件として以前にも書いたので、読んでもらえれば幸いじゃ。

朝廷から後醍醐帝の詫び状が届く 

この頃、幕府には後醍醐帝から此度の謀反に関する「詫び状」が届き、今後についての評定が開かれていた。もちろん、高時も参加じゃ。

二階堂道蘊は、 天皇武家にこのような手紙を出すことは異例であり、手紙を開かずにそのまま返すのが礼儀だと言う。それに対して高資は、「朝廷ごとき…」と、おかまいなしに文箱をあけようとする。

手紙は読まねば何が書いてあるかわからんではないか。わしも読みたいと思ったが、じつにめんどうなものじゃな。

ちなみに、これに近いシーンは古典「太平記」の中にもある。「太平記」では、二階堂道蘊の諫言を聞き入れず、高時が斉藤利行に「詫び状」を読み上げさせる。すると利行はとつぜん目まいを起こし、鼻血を吹き出して昏倒。7日後、喉に悪性腫物が出来て、血を吐いて死んでしまったというのじゃ。

わし、読まなくてよかったよ。

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さて、評定の行方じゃが、途中から赤橋守時が高氏逮捕の件を切り出し、円喜とやりあう。赤橋は、奥州で反乱がおきている今、足利を敵に回し、朝廷も呼応したらたいへんなことになる、と主張。これに対し、円喜は異議を唱える。

「(高氏は)罪ありと疑わるるゆえ罪人としたが、(足利を)敵とした覚えはござらん! いやしくも鎌倉幕府は、代々、身分の区別なく公平に裁きを行い、それゆえ天のご加護を受け、百数十年の命運を保ってまいったのじゃ」

円喜の主張はもっともじゃ。説得力がある。じゃが、赤橋はとんでもない隠し玉をもっていた。

「ならば、奥州に火を付けし罪人も等しく獄につながねばなりますまい」
「なに?」
「奥州の内乱が何故、幕府への反乱になったがご存じか?」

赤橋は、安藤氏の乱がおこったそもそもの原因は、北条の御内人の中に、賄賂を受け取り、公平な裁きをしなかったことを暴露したのじゃ。

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「誰じゃ!その不正をはたらきし者は!」

そりゃ、高資しかいないじゃろう。「公平」を政治信条とする高時は「不正」は大嫌い。評定の流れはガラリとかわる。

赤橋はあえて高資を糾弾せず、朝廷とは事を荒立てず、高氏を放免するよう迫り、金沢貞顕も「今は鎌倉の内部を固めるべき」と同調する。

「謀反の疑いある足利を許せと申すのか!」
「他を疑う前に、われら自身が正しくあらねばならぬ。此は、他を裁く者の資格と存ずるが、いかが!」
「わしは疲れた…。疲れたぞ。何事も穏やかがよいぞ、穏やかが。連署の申す通りじゃ。足利とは仲ようにのう。それがよいぞそれが……」

かくして高時の裁断により、「詫び状」は朝廷に返上し、高氏は放免することが決まる。  

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評定が終わりると円喜はブチ切れ。弁解しようとする高資を折檻する。

「私利私欲で内管領がつとまると思うのか、この愚か者!北条家はいま、傾いておるのじゃ。北条が崩れれば幕府も倒れる。そうならぬゆえ血を流してきた、そのことがわからぬのか。このうつけ!」

円喜の北条、幕府への思いはほんものじゃ。もちろん赤橋も鎌倉を大事に思っておる。じゃが、それは政見の異動のみ。

高時がもそっとしっかりしておったら、鎌倉は滅ばずに済んだかもしれぬな(反省)。

 

翌朝、金沢貞顕が高氏の無罪放免を貞氏に伝える。バカ息子に翻弄されたが、どうにか命を救うことができて喜びを表す貞氏。このシーンは、なかなか微笑ましい。

いっぽう、高氏も牢を出て久しぶりに娑婆に戻れることになりうれしさ爆発。「ざまあみろ!」とばかり幕府の役人に傲慢な態度をとっては、「しゃあっ!」と叫んで庭にジャンプしてのびのび深呼吸。このドラ息子、自分がどれだけ迷惑をみんなにかけたか、わかってないようじゃな。

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まあ、高氏の天然といってしまえば、それまでじゃがな。