今回は、高氏が藤夜叉とわが子・不知哉丸(後の足利直冬)と再会する、密かに「太平記」推しに人気がある放送回。じゃが、わしの出番はないので、今日は軽く感想をまとめるのみにさせてもらおう。
花夜叉(卯木)は楠木正成の妹だった
楠木正成が籠る赤坂城が陥落した。伊賀へ進軍中の高氏は、大仏貞直から楠木の残党狩りと正成の捕縛を要請される。「一本の矢も打つことなく鎌倉へ帰るのは無念」などとニヤニヤしながら白々しいことを言う高師直が、なんとも忌々しいではないか。
そこへ忍び姿の一色右馬介がやって来る。Twitterで「右馬介はどこかに衣装部屋をもっているのか?」とつぶやいておる者がいて笑ったが、この男、ほんとうに神出鬼没である。
右馬介は、近くに藤夜叉母子が住んでいることを高氏に告げ、それとなく会ってみてはどうかとすすめる。「会うてみたい。じゃが、会うてしまえば、2人を白日の下にさらすことになる」と高氏は躊躇いをみせる。戦雲漂う中、母子を巻き込みたくないという配慮のようじゃが、じつは登子に知られると面倒なのでないか? わしや判官にもいじられるしな。
一方、藤夜叉のところへは、ましらの石が楠木正成を連れて逃げ込んできた。そこへ花夜叉がやって来て正成に対面する。花夜叉の本名は「卯木」といい、じつは正成の妹だったんじゃ。
卯木は猿楽舞のために出奔し、正成とは疎遠になっていた。「楠木の家を捨てたその方の申し出はありがたいが、受けるわけにはいかん」と、正成にしては珍しく意固地になっていたが、さりとて他にどうしようもなく、結局は花夜叉一座に紛れて、逃亡を図ることになる。
ちなみに、この花夜叉なる人物、まったくの架空かと思っておったが、どうやらそうではないらしい。なんでも、あの有名な観阿弥は楠木正成の甥にあたるという話があるらしい。
わしはこのあたり、詳しくないので以下はWiki先生より。
1962年(昭和37年)三重県上野市(現・伊賀市)の旧家から発見された上嶋家文書(江戸時代末期の写本)によると、伊賀・服部氏族の上嶋元成の三男が観阿弥で、その母は楠木正成の姉妹であるという。この記載に従えば、観阿弥は正成の甥ということになる。後に発見された播州の永富家文書を傍証に、この記載を真とする意見もあり、1975年に永富家子孫によって、伊賀市に観阿弥の妻(世阿弥の母)の彫像が立てられた。しかしこの文書の信憑性を巡っては議論が分かれており、この説は研究者の間では広く受け入れられているとは言い難い。しかし梅原猛は、『うつぼ舟II 観阿弥と正成』(2009)で観阿弥と正成の関係を主張し、表章に挑戦した。表はこれを受けて『昭和の創作「伊賀観世系譜」―梅原猛の挑発に応えて』(2010)を上梓し、詳細に反論した。
吉川英治の原作『私本太平記』も、この説をもとに猿楽師・服部(上嶋)吉成の妻として、正成の妹・卯木を登場させている。もっとも原作では、藤夜叉の育ての親である猿楽師・花夜叉と正成の妹・卯木とはまったく別人物として出てくる。花夜叉と卯木を合体し、樋口可南子さんが演じた花夜叉(卯木)は、池端大河オリジナルのキャラクターじゃよ。
高氏と藤夜叉、運命の再会
藤夜叉と石もまた、何やらもめていた。引き止めようとする藤夜叉に、石は日野俊基からもらった書き付けを藤夜叉にみせ、「この土地をもらってみんなで静かに暮らすのがわしの夢じゃ、そのために正成とともに戦う」と語る。そして、「ここで静かに暮らそう」という藤夜叉に「わしらは夫婦でもなし。赤の他人ぞ」と出ていってしまう。これは高氏への嫉妬か? いずれにせよ、日野の書き付けなんぞをまだ信じておるこの男、ちょっと不憫である。
そして、よいタイミングで出てくるのが柳斎さんこと右馬介。藤夜叉は柳斎に、石を助けるべく、高氏と会わせて欲しいと頼む。
かくして高氏と藤夜叉、運命の再会となる。
「殿、ここは湧水のうまい里でござる。しばし休まれてはいかが」
「そうか(あっ…察し…)」
白々しい誘いに乗って、右馬介の手引きで民家にやってくる高氏。そこで戦ごっこをしているわが子・不知哉丸を見かけ、古家の中から藤夜叉が出てくる。
「先ほどのお子はおもとのお子か?」
「はい」
「すこやかなるお子とお見受けしたが、はや7、8歳か」
他の家臣もおるゆえ、お互いに初対面を装いながらの会話が続く。藤夜叉は「父は戦で死んだ侍大将だ」と言い聞かせて不知哉丸を育ててきたと話す。高氏は、水を一杯頂戴したお礼に自分にできるかとはないかと尋ねる。
「お願いでございます。これ以上戦を大きくしないでください。恐ろしいのです、戦が起こるとみな変わってしまう」
「石を助けてください。石は乱暴者ですが、わたしにとってはかけがえのない兄弟。どうか石を、私のところにお返しください」
「おもとが大切に思うておる者か。わかった。及ばずながら力になろう」
そこへ正成らしき者を捕らえたという報せが入る。「お子を戦に出されぬよう、大事になされ。御身も体をいとわれよ」と高氏は藤夜叉のもとを去る。
宮沢りえちゃんの初々しさと真田広之さんのよろしく哀愁な演技。わしも立場を忘れて思わずグッときたんじゃが……
待て待て。ここで楠木を捕らえてしまえば戦は終わり、世は収まる。あとあと不知哉丸が戦に出て、親子で戦うことにもならずに済むではないか。足利殿、ここはやはり楠木を逃してはならぬぞ。
そして検分が始まる。高氏と土肥佐渡前司の前には、連行されてきた花夜叉一座が座っている。高氏にしてみれば、どれも見知った顔ぶればかり。
それに車引の男、これ、どうみても怪しいじゃろうwww
とく捕らえよ!