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うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

映画「桜田門外ノ変」をみて…時代は動いたけど、その後の水戸と彦根が残念な件

前から気になっていた映画「桜田門外ノ変」のDVDを借りてきた。吉村昭さんの小説『桜田門外ノ変』がどんな感じで映像化されるのか、楽しみにしていたんじゃが……ざんねんながら期待はずれ、だったかもしれん。

 

 主人公は大沢たかお演じる関鉄之助。桜田門外の変で、現場の実行部隊を指揮した人物で、いわゆる桜田十八士の一人だ。ただ、いちおう、この人が主人公にはなっているけれど、じっさいにはこの人物の内面なりなんなりを深く掘り下げる、というよりは、事件に至る経過とその後を淡々と描いている感じで、あんまり感情移入ができない。

まあ、原作がそうなんだし、そもそも主題が桜田門外の変そのものにあるわけだから、あえてこういう構成になったんだろうけど、でも、映画なんだからもうちょっとね。

 
でも、セットに2億5000万円もかけたという井伊直弼の襲撃シーンは圧巻じゃった。
事件があった外桜田門彦根藩邸の距離はわずかに600m。季節外れの大雪の中、襲撃者たちは、武鑑を手にして大名駕籠見物を装い、堀端の茶屋で一杯やったりしながら、井伊大老の駕籠を待つ。
やがて藩邸の赤門が開くと、雨合羽を羽織り、刀には柄袋をつけた彦根藩の供侍たちが出てくる。
森五六郎が駕籠訴を装って行列の供頭に近づき、斬りかかる。
駕籠をめがけて合図のピストルを発射。
この銃弾が、居合いの達人でもあった井伊大老の腰部から太腿を貫く。
あとはもうひたすら斬り合い。
真っ白な雪景色に鮮血がとぶ。
いちおう、彦根の剣豪の河西忠左衛門らしき人物が孤軍奮闘するが、けっきょく有村次左衛門が井伊大老を籠から引きずり出し、首級を上げる。
(このあたり、かなりグロテスク)
この後は、襲撃した水戸脱藩浪士の生々しい自刃の場面が続いていく。そして、あてにしていた薩摩軍の上京が反故になり、水戸浪士たちはつぎつぎに捕らえられ、最後まで逃走していた関鉄之助も捕まり、死罪となる。
 
ただ、物語のラスト、維新を成し遂げた西郷吉之助が、桜田門から江戸城に入場するときの台詞。
「すべては、ここから始まった」
「あれから8年、あっというまじゃった」
西郷にそう語らせ、彼らの死に意義づけをして、この物語は終わる。この事件が時代を大きく動かしたことは確かである……といわんばかりに。
それはもちろんそうなんだけど……でも水戸も彦根も、この事件のあとは、ろくな動きをしていないんじゃよね。
水戸は、イギリス公使館焼き討ち事件や坂下門外の変のテロ行為をくりかえしたうえに、天狗党の乱。ただひたすら藩内抗争を繰り返して明治維新を迎える。司馬遼太郎さんは「摩滅」してしまったと評しているくらい。
 彦根は、井伊大老の懐刀であった長野主膳、宇津木六之丞を粛清。その後は幕府にいわれるまま、禁門の変や長州征伐には兵を出すものの、鳥羽伏見の戦いが勃発するや、下級藩士主導でさっさと薩長軍の側についてしまう。水戸浪士も、井伊大老も、さぞや忸怩たる思いでいるのでは?などと考えてしまったり。
 
そういう意味では、この桜田門外の変で、両藩ともその役目を終えてしまったということなのかもしれんね。