今年は戦後70年の節目の年。昨日は安部総理の「戦後以来の大改革」を断行するという施政方針演説があった。また最近、なにかとお騒がせな百田尚樹さんのベストセラー「永遠の0」がテレビドラマ化された。そんな折に、「歴史街道」で<菅野直と紫電改>が特集されておる。
近現代史や太平洋戦争、ミリタリー系については正直、さっぱりなんじゃが、菅野直には平野耕太さんの「ドリフターズ」で興味をもっていたので、本日は、そのあたりを少々。

菅野デストロイヤー、イエローファイターと呼ばれる
菅野直はご存知、日本海軍のエースパイロットのひとり。太平洋戦争では零戦、紫電改に乗り込み、敵機撃墜72機というものすごい戦果をあげた「撃墜王」じゃ。 菅野は敵機上方から猛スピードで急降下、敵の機銃ををものともせず至近距離まで接近して攻撃するという、捨て身の戦法で、B29と戦い続けた。菅野が乗る紫電改には黄色のストライプ模様があり、米軍パイロット達の間では「「イエローファイター」と怖れられていたらしい。
大正10年(1921)、警察署長として平壌にほど近い竜口に赴任した菅野浪治の次男として生まれた菅野直。少年の頃はとにかく激昂しやすい性分のガキ大将だったようじゃ。兄が喧嘩に負けて帰宅するとその仇討ちに出かけたり、猛犬と格闘してナイフで突き殺したり、破天荒な逸話がたくさん伝わっている。 その一方で、学業成績は優秀。石川啄木に傾倒して短歌を詠んだりする文学青年でもあったそうじゃ。しかし、家庭の経済的事情で軍人となることを決意し、長じると海軍兵学校に入学する。
飛行学生時代も、その破天荒な性格はかわらなかったようじゃ。模擬戦で教官の機体と接触を繰り返すなどして何機も練習機を破壊。「菅野デストロイヤー」という渾名をつけられている。
従軍してからも、やんちゃなエピソードには事欠かない。機械油で揚げた天ぷらを食べて腹を壊したり、気に入らない上官をプロペラの風圧で吹き飛ばしたり、麻酔なしで手術を受けたり、不時着した島の原住民に「俺は日本のプリンスだ」と豪語して王様のようにふるまったり……
なんとも豪快で愉快な菅野のキャラじゃのう。ドリフの「バカヤロウコノヤロウ」は、このあたりの逸話からきているんじゃろう。 ただこうしたキャラは、歴戦の部下たちから慕われ、また上司からも、つねに部隊の先頭を切って戦う姿に絶大なる信頼を得ていたようじゃ。
343空、本土防空の死闘
菅野直といえば、やはり松山の第343海軍航空隊・通称「剣」部隊。太平洋戦争末期、エース級のパイロットと最新鋭の紫電改で編成された、本土防衛と制空権奪還のための精鋭部隊じゃ。菅野は戦闘301・通称「新選組」の隊長として参画するが、すでにこの頃、B29による爆撃は本格化し、米軍はいよいよ沖縄に迫っていた。
昭和20年(1945)3月19日、343空は初陣で敵機を松山上空で迎え撃ち、50機あまりを撃墜するという大戦果をあげた。中でも戦闘301新選組の活躍はすさまじく、菅野も敵機1機を撃墜している。しかし乱戦の中で被弾し、菅野は落下傘で脱出。電線にひっかかっているところを、地元民に敵兵と間違えられ竹槍や鎌で追い回されたというエピソードが伝わっている。
しかし、この大勝利は日本海軍航空隊にとって最後のものとなる。菅野率いる戦闘301新選組は、その後も出撃をくりかえし、八面六臂の活躍をするが、激戦の中で有能なパイロットを失っていく。特攻隊についてはかつては自ら志願したようじゃが、その技量を惜しんだ上層部はこれをを認めなかったという。いっぽうで部下の特攻は決して許さず、「部下を出すなら俺が行く」と、その戦法には批判的であったとも伝わっている。
菅野直、最後の出撃
昭和20年8月1日、戦闘301新選組は屋久島北方で九州に向けて北上する敵機の邀撃に出る。しかし、菅野が乗る紫電改は機銃筒内爆発を起こしてしまう。
「ワレ、機銃筒内爆発ス。ワレ、菅野一番」
この無線を聞いた2番機の堀光雄飛曹長が護衛にかけつけると、菅野は拳をつきあげて敵の攻撃に向かうよう指示したという。去り際、堀は怒りの形相であった菅野の表情が和らいだのを見たと語っている。
「空戦ヤメ、全機アツマレ」
「ワレ、機銃筒内爆発ス。諸君ノ協力ニ感謝ス、ワレ、菅野一番」
この入電を最後に菅野機は行方不明となる。かくして菅野直は、「ドリフターズ」の世界へと漂流し、戦い続けることになるのじゃよ。
なお、菅野の遺言により、遺品はすべて焼却されているが、存命中に愛用していた財布は靖国神社の遊就館に展示されている。
豪放磊落で個性的なキャラ、戦闘機乗りとしての確かな腕前、そしてミステリアスな最後。こうして長々と書いているうちに、人気を集めるのはむべなるかな、という気もしてきた。
しかし、ご本人も70年後、若者たちから、島津豊久、織田信長、那須与一といった歴史上の錚々たるメンバーたちといっしょに、「まじ、かっけぇ!」「日本が生んだ破壊神」などと、これほどまでに騒がれるとは、まったく想像していなかったじゃろう。
こんど、ちゃんとした本を一冊読んでみようかのう。